どうもこんにちは、根岸です。
少し時間が空いてしまいましたが、今回は7話目でございます。
引き続きパーツの解説です!
7.「パーフォレーションセンサー」
ゆっくり動き続けるフィルムのパーフォレーションを頼りに、1コマ1コマがぴったり同じ位置に来た瞬間にシャッターを切るというのがこのテレシネ機の動作方式なのですが、そのためにはフィルムの「穴」と「穴ではない部分」をしっかり判別できるセンサーが必要です。人間が目で見ればくっきりした穴なので簡単に判別できそうな気もしますが、電気信号として取り出すには具体的にはどうすれば良いでしょうか。
(スーパー8フィルムのパーフォレーション)
8ミリフィルムの穴はわずか1ミリ角くらいの大きさしかないので、機械的にオン/オフするスイッチを使って穴を検出するのはかなり厳しいものがあります。
このような用途で最初に思いつくのは「フォトインタラプタ」と呼ばれる電子部品です。
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-09668/
これは光をさえぎることで反応するスイッチです。
コの字型になっている腕の一方に光源のLEDが入っています。少し間をあけて対面の腕には光センサーとしてフォトトランジスタが入っています。LEDとセンサーは1個のケースに収まっていますが、完全に独立していて電気的な接続はありません。
LEDに電流を流すとLED側の腕にある細いスリットから対面の光センサー側のスリットに向かって目に見えない赤外線が発光します。
もし何もさえぎるものが無ければ光は対面の光センサーに入って電子的なスイッチがオンになります。途中に障害物があって光がさえぎられると、光センサーはオフになります。
光で動作するのでフィルムの穴を壊したりフィルムに傷をつける心配もないでしょう。
色々な用途に大量に使われているごく一般的な部品なので値段も非常に安価です。
当初はこのフォトインタラプタでパーフォレーションを簡単に検出できるという目論見だったのですが、実際にやってみると出力がひどく不安定でうまく行きませんでした。
フィルムの穴が小さすぎるのでちゃんとオンになっていないのでは?とも考えましたが、センサーからの出力信号を調べるとどうやらそうではなく、逆にちゃんとオフになっていないようでした。つまり「フィルムの穴ではない部分がきちんと光をさえぎっていない」らしいのです。
(8ミリカラーフィルム)
結論から言うと、これはフォトインタラプタが「赤外線」で動作するために起きた問題でした。
昔のモノクロフィルムはフィルム上の乳剤に含まれる「銀」の濃淡で画像が作られていましたが、カラーフィルムは現像する際の処理で銀が除去されていて、かわりに「色素」で画像が記録されています。銀であれば人間の目に見える可視光線だけでなく、見えない赤外線もさえぎるのですが、カラーフィルムの黒い部分の色素は人間の目には黒く見えても赤外線を充分にさえぎらないので、赤外線LEDを使ったフォトインタラプタではフィルムの「穴ではない部分」をうまく検出できなかったのです。
しかしフォトインタラプタには、室内の照明などセンサー以外からの外乱光の影響を減らすために赤外線LEDを使うのが普通です。入手できるフォトインタラプタも例外なく赤外線を使っているものばかりです。そこで仕方なくフォトインタラプタを改造して「赤外線を出すLEDを可視光線のLEDに入れ替える」ことにしました。
(フォトインタラプタに入っていた赤外線LED)
問題は、フォトインタラプタに内蔵されている元々のLEDはとても小型で、リード線が出ている向きに対して直角方向に発光する特殊な形状なので、簡単に入れ替えられるような同じ形の可視光のLEDというのが存在しないことでした。
いっそのこと市販のフォトインタラプタを使わずに、3Dプリンターで同様のものを作っても良かったのですが、3Dプリンターで使用している樹脂の色などの問題もあって今回は元々の赤外線LEDを取り外した後、発光側のスリットを壊さないようにドリルで直径3ミリの穴を慎重にあけて、ごく普通の砲弾型のLEDを差し込むことができるようにフォトインタラプタを改造することにしました。
受光側のセンサーは本来の赤外線ではなくてもそれなりに反応したので、そのまま使っています。
(改造したフォトインタラプタ)
この状態で、どんな色のLEDを使うと一番うまくフィルムを検出できるかを実験したところ、「青色LED」であれば多少色が異なっていても概ね良い結果が得られました。
測定値では少し高価な、紫外線を多く出すLEDのひとつが一番良かったのですが、それとほとんど同じ結果がちょっと変わった「アイスブルー」という色の、安価な装飾用LEDで得られたので、パーフォレーションセンサーにはこのLEDを使うことにしました。(注1)
これでカラーフィルムに対応したフォトインタラプタの目途が立ったので、次はこのフォトインタラプタがうまく穴を検出する位置にフィルムを通すためのガイド部分を作ります。
最初に作ってみたのは、金属の六角スペーサーでフィルムのエッジの位置を決めるガイドポストを作り、パーフォレーションの穴の中心にフォトインタラプタの光学的な中心が一致するように固定したシンプルなオープンフレーム形でした。
しかし実際に動かしてみると走行中のフィルムはエッジ方向だけではなく、上下の厚み方向にもかなり波打つことがわかりました。
LEDと受光側センサーの距離はわずか3ミリなのですが、その中でフィルムとセンサーとの距離が変化すると、それだけで穴を検出するタイミングが変わったり、走行中のフィルムのねじれによってうまく穴を検出できなかったりという問題が起きました。
そこで現在のパーフォレーションセンサーは、モバイルビューワーと同様の構造にしています。
(現在のパーフォレーションセンサー)
このセンサーモジュールはフィルムをしっかりガイドする細い溝のある筒状になっていて、その途中にフォトインタラプタをはめ込むことができるようになっています。さらに可視光のLEDを取り付けるための穴があるので、その穴を通してドリルを使ってフォトインタラプタに慎重に穴をあければ正しい位置に青色LEDを取り付けることができます。
配線を引き出すための小さな基板にはLEDの電流制限抵抗(注2)も乗せてあるので、モーターコントローラーに供給するのと同じ5Vを接続できます。
このセンサーとフィルムを撮影しているレンズとの距離を変えると、シャッターが切れるタイミングが変わります。信号が出てから実際にシャッターが切れるまでの時間は予測できないので、撮影結果を見ながら調整できるように長孔を設けたL型の取付用パーツを3Dプリンターで作り、テレシネ機に取り付けています。
(白黒は光センサー側の配線、白赤はLED側の配線)
パーフォレーションセンサーとセンサー取付用パーツの3Dプリンター用データを用意しましたのでダウンロードしてご利用ください。
(注1) この3Φのアイスブルー色のLEDは以前秋月電子通商で購入したものですが、現在は扱っていないようです。
(注2)最適なLEDの明るさを決めるため、写真のテレシネ機ではLEDの電流制限抵抗として220Ωの固定抵抗と500Ωのボリュームが直列に入っています。製作するときは同様に抵抗値を調整可能にしても良いと思いますが、動作結果を見ながら220Ω~750Ω程度で調子の良い値を選んで固定にしても問題ないでしょう。実験の結果フィルムによる調整はさほど必要なかったので、この実験装置では最終的に680Ωで固定にしました。