どうもこんにちは、根岸です。
今日はめずらしく狐の嫁入りですね!
さて、今回は10話目でございます。
パーツ解説に戻ります!
10.「スピンドル」と「リールベース」
テレシネ装置にはこれから変換するフィルムを巻いた供給側リールと、コマ撮りが済んだフィルムを巻き取る側のリールが必要になります。これらのリールを取り付ける相手の軸の部品を「スピンドル」、さらにこのスピンドルを支える軸受けの部品を「リールベース」と呼んでいます。
2種類あるリール穴
8ミリフィルムのリールの中心にある「穴」のサイズは、大まかに大と小の2タイプあります。
スーパー8(シングル8)規格のフィルムはカメラで撮影するときはカセットに入っていますが、現像後には「3号リール」と呼ばれる直径3インチ(7.5センチ)の小さなリールに巻かれて返却されます。このリールは小指の先が入るくらいの大きい軸穴のあるリールです。
それよりも古い「レギュラー8(ダブル8)」規格のフィルムもリールの大きさは同じなのですが、こちらはちょうど鉛筆が入るくらいのもっと小さい軸穴のリールに巻かれていました。
この軸穴のサイズの違いは、知っていれば一見してすぐに区別がつくと思います。
(左:スーパー8(シングル8)、右:レギュラー8(ダブル8))
現像後に自分で編集して長い作品にするには、自分で5号や7号といった大きな空リールを購入して巻き直す必要があるわけですが、そのような場合にはフィルムのタイプに合わせたリールの使い分けが厳密にされていないこともよくあります。
売っている空リールの方も、大きな穴のリールには細いスピンドルに対応させるためのアダプターがついてくることが多かったのです。
映写機側は、スーパー8専用の映写機では太いスピンドルのものが多いのですが、スーパー8とレギュラー8の両方の規格に対応した映写機にはリールの穴が大きくても小さくても装着できるように、両方のリールに対応しているものがあります。
リールのタイプを選ばす使えるようにするには、装置側のスピンドルは小さい穴に対応した細いものにしておいて、そこに穴の大きなリールを装着するときには簡単なアダプターをかぶせてスピンドルを太くして使うというのが良い方法かもしれません。
(左:市販の8ミリフィルム変換機のスピンドル、右:アダプターを被せた状態)
というわけで今回のテレシネ装置も細いスピンドルにしたい所だったのですが、細いスピンドルでは3Dプリンターで製作しても強度的に限界に近ので、市販の製品のようにワンタッチでリールが固定されるようなバネ要素を組み込むには、複雑な形に加工した金属部品で芯になるシャフトを作る必要が出てきます。
この程度の金属部品であれば、DIY用の小さな旋盤さえあれば簡単に作ることもできるだろうとは思いますが、さすがにそこまでの設備は社内にありません。
ごく少量の試作となると業者に依頼してもたいへん高価な部品になってしまうでしょう。
これが大量生産する市販の製品であれば、工場で作るので1本あたりは問題にならないような値段になるのですが。
その点、太い方のスピンドルなら全体を3Dプリンターで作ってもある程度の強度が達成できそうです。今回のテレシネ装置はスーパー8(シングル8)専用のビューワーを使用していることもあるので、割り切って供給側も巻取り側も、3Dプリンターで作った太いタイプのスピンドルを使うことにしました。
リールまわりの構造
リールまわりの基本的な構造は以前YouTubeでもご紹介した「スーパーダビング8用のリールアダプター」と同じです。
(リールベースの取付)
テレシネ装置の左右に垂直に立ててあるアルミアングルには、使用する皿ねじに合わせた穴あけ加工をしました。このアルミアングルの先端に、タッピングねじを使ってリールベースを取り付けます。
右の写真ではリールベースの裏側から取付け用の黒いねじの先が2本飛び出しているのが見えますが、このねじは不要になったビデオテープのカセットを分解したときに取っておいた2.6ミリのプラスチック用ねじです。ここは3ミリの貫通穴をあけてM3のビスとナットで取り付けてもよいと思いますが、ねじの頭やナットがリールやベルトと干渉しないように注意が必要です。
リールベース部品の役割は回転軸(シャフト)を支えることですが、そのための軸受けの部分には両面からひとつずつ含油ブッシュを挿入してあります。
含油ブッシュは潤滑油を含んだプラスチック製の軸受けの部品で、摩耗に強い樹脂でできています。これは絶対に必要な部品というわけではありませんが、リールベースを作るのに使用したDLP方式の3Dプリンターは精密な造形が可能な半面、出力した樹脂は削れて傷がつきやすいという欠点があるので入れてあります。もし含油ブッシュを使用しない場合はリールベース部品の穴をシャフトに合わせる修正が必要になります。
(含油ブッシュ)
金属シャフト
次に、スピンドル部品をシャフトに取り付けます。
「スーパーダビング8用のリールアダプター」で使用したスピンドルでは、レインボープロダクツ製の「ねじロッド」をシャフトとして使用しています。
ねじロッドは金属の丸棒の両端がねじになっていて、中間の部分はねじがありません。この中間部分を軸受けの含油ブッシュで支える構造です。
ねじロッドは少し特殊な部品で値段も高いので、代わりに長いM3ねじを使ってもよいと思います。M3のねじの直径は3ミリ以下の太さしかないので、その場合は軸のガタつきが少し大きくなるかもしれません。今回はあまり大きなリールは付かないのでフィルムの重さもそれほどではありませんが、含油ブッシュはプラスチックでできているため、そこに金属のねじ山が当たるとブッシュに傷がつきやすい可能性はあります。
(「スーパーダビング8用のリールアダプター」タイプのスピンドル)
スピンドルはリールを取り付ける相手側の部品です。今回はDLP方式のプリンターで作りましたがFDM方式のものの方が適しています。DLP方式の樹脂はFDMで使う樹脂よりも脆いので、リールが外れないように出っ張る「バネ」部分が折れやすいのが難点です。
実は今回製作したテレシネ機には、以前の準備段階で製作した「手動式の8ミリフィルム用ワインダー」のスピンドルも流用しています。
こちらのスピンドルはネジロッドとナットではなく、タミヤのプーリーセットに付属している歯車型の「3N」部品と2.9ミリの固定用ブッシュを使って六角シャフトに取り付る設計です。わざわざ含油ブッシュを使っているのに、その中で六角形のシャフトが回ることになるのですが…手で回してみるとそれほどガタガタ回る感じではないので良しとしました。
プーリー
金属シャフトの先端にスピンドル部品を取り付けたら、それをリールベースに挿し込んで、反対からとび出たシャフトの先端にプーリーを取り付けます。
回転数も負荷もさほど厳しい条件ではないので、市販の模型工作用のプーリーでも、駆動ベルトの仕様に合わせて3Dプリンターでプーリーを自作しても良いでしょう。
(アルミアングルに取り付けたリールベース、スピンドル、プーリー)
供給側(写真:左)は、レインボープロダクツ製のネジロッド(3mm x 29mm)とタミヤのプーリーセット(S)に入っていた20ミリの白いプーリーを使用しています。こちら側のプーリーはフィルムを巻き戻すときだけ使用します。小さいプーリーの方がリールを速く回すことができますが、この程度がちょうど良い感じです。
巻取り側(写真:右)には、「スーパーダビング8用のリールアダプター」のときに試作した2ミリのウレタンベルト用プーリーを使用しています。このプーリーの穴は小さめなので、六角シャフトは単に強く叩きこむだけでしっかり固定されています。
供給側リールのプーリーは巻き戻し専用なので通常の変換時はベルトをかけず空回りしていますが、巻取り側リールのプーリーにはフィルムを動かすモーターの回転力の一部をベルトで伝えて回します。
リールの回転数
テレシネ中の「フィルム」はゆっくり一定の速度で動きます。しかしこのとき「リール」が回る速度は一定ではありません。リールの回転する速さは巻かれたフィルムの直径に応じて変化します。
フィルムを供給する側のリールはフィルムが引っ張られるのに従って回るだけですが、フィルムを巻き取る側のリールはそうは行きません。常にフィルムをたるませないように巻き取るためには、巻き取った量に応じて最初は速く、次第に遅くリールの回転速度を変える必要があるのです。
これを実現するにはいくつか方法が考えられます。8ミリ映写機では映写機ギヤの組み合わせの途中に回転トルクを制限する「スリップクラッチ」という部品を入れることが多いです。今回は簡易な方法としてプーリーとベルトの間のスリップを利用することにしました。
リールのフィルムを巻きつける部分の太さは決まったサイズがあるわけではありませんが、一番小さい3インチのリールで直径3センチといったところです。これを基準に考えると、リールが1回転したときに巻き取ることのできるフィルムの長さは、最低でもおよそ94ミリと見積ることができます。
これに対して直径12ミリのキャプスタンから送り出されるフィルムは1回転につき37.7ミリです。巻取りリールがいちばん速く回らなくてはいけないのは変換がスタートした直後の巻取り始めの時ですが、その時でもキャプスタンが2回転半する間にリールが1回転すれば、フィルムをたるませずに巻き取ることができるはずです。今回使用したプーリーは、ほぼこの巻取り始めの比率にぴったりのサイズになっています。
フィルムの巻取りが進んで次第に太くなってくれば、同じリールの1回転でもっとたくさんのフィルムを巻けるようになります。しかしフィルムはキャプスタンとピンチローラーにしっかり挟まれているので、リールがフィルムを引っ張ってもゆっくりとしか動きません。巻き取りリールはもっと速く回ろうとしますがフィルムで回転が拘束されているので、プーリーとベルトの間が常時スリップしている状態になります。
これにより結果的に、リールはフィルムの動く速度に追従して回転速度が変化しながら回ることになります。
今回製作したスーパー8リール用のスピンドルとリールベースの3Dプリンター用データを公開しています。下記のリンクからダウンロードできますのでぜひご利用ください。
https://firestorage.jp/download/893d2a363ccbcd6d24d30552aa1b46ac61d58321
参考入手先
含油ブッシュ オイレス工業 80B-0305
ネジロッド 3mm x 29mm レインボープロダクツ
プーリー(S)セット 楽しい工作シリーズ(パーツ) No.140 TAMIYA
千石電商 東京都千代田区外神田1-8-6丸和ビル